エゾスズランはスズランではない!(つづき)2014年06月27日

※『エゾスズランはスズランではない!』のつづき(後編)です

「ちょっといいですか?」、そう言って虫の先生がとつぜん走ってきた。「珍しいものを見つけたんですよ」
 先生の差しだす透明の小さなプラスチックケースを見ると、そこにはとくに特徴もないように見える黒い虫が入っていた。
「ユミアシゴミムシダマシです。これ、めったに見られない珍しい虫なんですよ」と先生は早口で言った。少し興奮しているように見える。
「……」
「ゴミムシ、ダマシ……ですか?」と美人ガイドはつぶやいた。
「……」
「ゴミムシでもないんだ……」と背の高い女性が無表情で言った。
「ゴミムシ以下、ってことですか?」、妻はそう言いながらちらりと定年夫を見た。
「ほら、前脚が弓のように曲がってるでしょう。だからユミアシっていうんですよ。これが特徴です。ほんとこれ、なかなか見られない珍しい虫なんですよ。ほんとですよ」と先生は力説した。
 少しのあいだ、誰も声を出せずにいた。

「ああ、そこのエゾスズランを見ていたんですね」と先生が取り繕うように言った。「この花もまぎらわしい名前をつけられちゃったもんだから、ガイドさんでも間違った説明をしちゃう人がいるくらいなんですよ」
「これはスズランの仲間ではないって聞きましたけども」と背の高い女性が聞いた。
「エゾスズランのスズランって、カキランの別名なんですよね。だから意味的にはエゾカキランなんです」、そう虫の先生は言った。
「どうしてわざわざ別名の方をつけたんですかね?」と背の高い女性が言った。
「まあこれは私の想像になりますけども、カキランっていうのは花が柿の実の色をしてるからカキランなんです。でもエゾスズランの花って地味な緑色じゃないですか。だからエゾカキランっていうのはちょっとヘンだぞと……。だったらカキランの別名のスズランを使おうかってことになったんじゃないですかね。別名のスズランっていうのは、つぼみの形状が鈴に似ているのでそう呼ばれているらしいんですけど、それなら特におかしくはないですからね。逆にまぎらわしい名前にはなってしまいましたけども……」
「なるほど、そういうことでしたか……」と背の高い女性は頷きながら言った。
「最初っからそうやって説明してくれれば、私だってちゃんとわかるんだよ」と定年夫が女ガイドに向かって言った。
 妻は下を向いてため息をついた。
「まあ、われわれ本日のガイドもコンニャクとオカッパみたいなヘンな名前だったりしますから、エゾスズランの名前に文句なんかつけられないんですけどね。はっはっは」と先生は楽しそうに笑った。

「あ、そこにリスがいますよ!」、美人ガイドが笑顔で子供たちに言った。
「わーほんとだ、ママ、見て見て!」子供たちはリスの方に駆けて行った。

「先生、あのさっきの虫、最初からポケットに入ってましたよね」と私は小声で聞いてみた。
「えっ、見られてましたか。実は一時間ほど前にみつけて、標本にしようと思ってポケットに入れておいたやつなんです。彼女、まだ新米ガイドなものですから……」と先生は笑顔で言った。





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すばらしい!

私の予想では虫の先生がおっさんに毛虫攻撃でもするのかと
思ってました。(笑)
ガイドの仕事もいろんな人を相手にするので大変だよね。

No title

このストーリーの意図する所は、「エゾスズランはスズランじゃない」 と言うことだけじゃなくて、
何か他に裏の意味がありそう~~。

まだオチがないので、お話は続くんですよね?


わくわく・・・ p(^v^)q p(^v^)q


No title

後編、楽しく拝見いたしました。
「森の散策タイム」では本当にありそうな話ですよね。
たまには、またお願いいたします。

よいお話でした!

岡津波先生は貴兄自身でしょうか?
味わいのある話にまとまりましたね。知ったかぶり定年オジサンは確かに実在しそうです。

ところで、スズランじゃないのにスズランの名を冠しているのは、分類学が未発達なころに姿が似ているということでついた訳でもなのでしょうか?と知ったかぶりしたりして。

それとよくある虫の名前のモドキとかダマシというのも、考えようによってはヒドイネーミングかも知れませんね。
おなら出ちゃっ太モドキとか、おなら出ちゃっ太ダマシなんて人がいたら…、いや、モドキやダマシ以前の問題か?
(^_^;

コメントありがとうございました!

外出から戻ったら、コメントがたくさん来ててビックリしました!

>ヒデさん
たしかにガイドさんも大変そうです。
でもきっとガイドの皆さんは好きでやってると思われるので、けっこう楽しそうに見えますね。

>かなさん
えっ、さらに続編ですか?
でも、変なことを思いつくと急に書きたくなってくるので、突然また書いちゃうかも!?

>ytさん
ytさんのおかげで後編ができました!
たまにこういうのを書くのも楽しいです。きっとまた突然書きます!

>おなら出ちゃっ太さん
残念! 岡津波先生は僕ではなくて僕の飲み友達です。
でも生き物の名前の由来なんかは想像するしかなくて難しいですね。
「おなら出ちゃっ太ダマシ」というのは、固体が出ちゃったのにおならだけだとごまかす人みたいで、なかなか面白いと思いました!
プロフィール

Scorpionfly

Scorpionfly
※名古屋に転居しました!
円山を中心に、三角山や藻岩山、手稲山、野幌森林公園なんかにも出没します。書く内容によって文体が変わるクセがあります。

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