三角山で2015年05月06日

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「きれいなシラネアオイ」
 そう言うと女は無造作にそれを引きちぎって、手に持ったまま登山道を下りた。何気なく匂いをかいでみる。しかし期待したような香りはなかった。
「見かけだおしの花だねえ、アオイちゃんは。でもよくいるんだなー、こういうヤツ」
 女はそうひとりごとを言うと、まるで紙飛行機でも飛ばすようにしてシラネアオイを薮の奥に捨てた。

「何やってんだ、あんた!」
 背後から男の声が聞こえた。振り向くと、若者のような格好はしているが明らかに還暦はすぎていると思われる老人が歩いてくるのが見えた。髪は不自然に真っ黒だった。
「あんた今、シラネアオイの花を採って捨てただろ」
 女は男の顔をじっと見たまま何も言わなかった。
「あんた、盗掘したよな?」
 女は何も言わない。
「三角山の、特にこの哲学の道のシラネアオイはみんなで保護してるんだわ。そういうことされたら困るんだよな」
「そうですか」と女は目をそらしたまま言った。
 老人は舌打ちすると、女をじっと見た。しかしすぐには言葉が出てこない。
「あんたのやったことは立派な犯罪行為なんだからな。わかってんのか、オバさん。通報してやってもいいんだぞ」
「あんたみたいな爺さんに、オバさんとか言われたくないね」
 女はそう言って老人をにらみつけた。イタリアの太った主婦のような迫力があった。
 老人は女に見えるようにスマートフォンを取り出した。通報しようとしているようだった。あるいはそう見せかけて脅そうとしているのかもしれない。
 しかし、スマートフォンを操作する手の手首にかかっているコンビニの袋がじゃまになっているようで、老人はそれをはずそうとした。
「そこに入ってるの何さ」と女は言った。
「アズキナだ」と老人は何気なく答えてから、はっとしたように女を見た。
「シラネアオイ一輪はダメでも、袋いっぱいのアズキナはいいのかい?」
 勝ち誇った顔でイタリア的な女は言った。
「シラネアオイはここでみんなで保護してるんだわ。アズキナはみんな採ってる山菜だべさ」
「へーえ、みんな採ってれば採っていいんだ? 私の前に歩いてた二人組の主婦、ごっそりシラネアオイ採ってたけど、あなたの論理だと問題ないことになるんじゃないの?」
「それとこれとは別だ」
「そお? じゃ、アズキナは問題ないって言うんだったら、写真撮らせてもらおうかな。問題ないならいいはずだよね」
 そう言って女がカメラを構えようとすると、老人はあわててアズキナをリュックに入れ、顔を向こうに向けた状態で走るように去っていった。

※本日の内容は、某ブログ記事にインスパイアされたフィクションです。



追記:
伊坂幸太郎さんの『終末のフール』という短編集を読んでいたら、ひさしぶりに書きたくなってきたので一杯やりながら書いてみました。この短編の最初のストーリーは、「馬鹿」が口癖になっているお父さんの話です。




ちなみに、その前に読んだ本は藤沢周平さんの『夜消える』です。村上春樹さんが、例のサイトで「戦後の日本の小説家の中では、安岡章太郎さんと並んで、いちばん文章のうまい人じゃないかな」と書いていたので読んでみました。実際に読んでみて、たしかにその通りだと思いました。






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No title

独りよがりの思い込み違い...ってよくありますね。(^^;)
人を批判してエラそうにする族。年寄りにはつきものかも
しれません。誰もがしているからが良いと勘違い。そして
かってな言い分。判断能力の低下もその原因かもです。
交通違反切符を切られた人間にもよくある「他もしてる
のに、なぜ自分だけ捕まるのか...」な〜んてね。自分の
ことを棚に上げて喰ってかかる族が大勢いますから・・・。

Re:

判断力、おそろしい速度で落ちていきますね。(^_^;)
そういうのを常日頃からはっきりと意識していないと、自分もまわりの人に迷惑をかけていそうで恐いです。
狭い散策路なんかでは「道をふさぎやがって!」と思うこともあれば、自分が道をふさいでしまっていることもよくあります。
まあ、歳も歳なのである程度は仕方がないかもしれませんが、できる範囲で努力して補っていきたいものです。
プロフィール

Scorpionfly

Scorpionfly
※名古屋に転居しました!
円山を中心に、三角山や藻岩山、手稲山、野幌森林公園なんかにも出没します。書く内容によって文体が変わるクセがあります。

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