古本2015年07月14日

村上春樹『ランゲルハンス島の午後』『村上朝日堂の逆襲』

 ひさしぶりに古本屋に行って、この二冊と安岡章太郎の『遁走』を買ってきた。

 本当はレイモンド・カーヴァーの『ビギナーズ』か『』か『ファイアズ(炎)』か『必要になったら電話をかけて』あたりが欲しかったのだが、おいてなかった。これらの本は先日、名古屋駅近くのジュンク堂に行ったときにもおいてなかった。札幌駅の紀伊国屋だと普通にあったんだけどなあ。

 ところで僕には、古本に触ったあとは必ず手を洗う習慣というかクセのようなものがある。特に札幌医科大学の近くにあった某店で買った本などの場合は念入りに手を洗っていた。なんとなくだが、長い入院生活をしている人がゲホゲホと咳をしながら特殊なウイルスをまんべんなく吹きかけていたような気がしてしまうのだ。書店で普通に売られている本だってたいして変わらないのは頭の中ではわかっているものの、古本の場合はどうしても手を洗わずにはいられない。というか必ず洗う。



 そんな性癖のある僕が今回最初に読んだのは『ランゲルハンス島の午後』。僕は本を読むときは最初から最後まで順番に全部読む。だから今回も「まえがき」から読んでいた。するとなにか黒い点のようなものが文字の上を移動していた。少なくとも僕にはそう見えた。しかし最近老人になってしまったような徴候もあるので、飛蚊症のようにそこには存在しないものが見えていた可能性もある。でもとにかく僕は「うわっ、虫だ!」と思って指でしゅっとこすった。するとその黒いものは消えた。本当にいたのかいなかったのかは確認のしようもない。

 ――と考えていたら、本に証拠が残っていた。↓これでござる。



 とりあえず手を洗ってからまた続きを読んだ。

 これからは手を洗うだけでなく、虫にも警戒する必要がありそうだ。なんか痒くなってきた。


追記(読んでみての感想):
ランゲルハンス島の午後』はまあ普通の村上春樹だったのだが、『村上朝日堂の逆襲』の方は、これまで読んだどの村上春樹のエッセイとも違っていてビックリした。イケイケなのである。こんな調子にのった、というかノリノリで普通の若者らしい村上春樹の文章は初めて読んだ気がする。

たとえば、選挙については「マイナス4とマイナス3のどちらかを選ぶために投票所まで行けっていわれたって、行かないよ、そんなの」などと書かれている。そんな感じで文章に現在のような特別な慎重さは感じられず、若者特有の傲慢さのようなものさえ垣間見るこができるのだ。また、村上春樹にしては珍しく「〜かしらん?」が使われているし、奥さんのことを「つれあい」とか「女房」と書いているのも初めて見た気がする(普通は「うちの奥さん」などと書いている)。村上春樹のこんな文章が読めるのは、この本だけなのではないだろうか?

でもなぜこの本がそうであるのかという理由はよくわかる。この本は、あの『ノルウェイの森』が出版される一年ほど前に出版された本なのだ。つまり、『羊をめぐる冒険』という自分で納得のいく最初の長編小説を世に送り出し、村上春樹の最高傑作とも言われる『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』をも発表した翌年で、文章が書けなくなるほど彼を落ち込ませることとなる『ノルウェイの森』が発売される直前の作品なのだ。わかりやすく言ってしまえば、若き日の順風満帆だった頃の最初で最後のエッセイが読める作品だと言える。これはなかなか貴重な本だ。

印税で何億円も入るとか、そんなことはあり得ないとこの本には書いてあるが、実際には彼はこのあとそれを軽く越える収入を得ることになり、まわりの人間が瞬時に態度を変えはじめる。また、異常なほど多くの人に本が読まれるということは、異常なほど多くの批判を受けることにもなる。彼はそれらのことで大きくショックを受け、落ち込み、日本を離れてしまう(たしかそんな感じだったと記憶しています)。とにかく『村上朝日堂の逆襲』は村上春樹の珍しい文章が読める本です。











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これはこれは!

貴兄の意外に神経質な面を知って、びっくりです!
医大病院前の古本屋というと、あそこですね。入り口が前と後ろの方の横にあるお店。
ブック○フなんかに比べて、すすけた本が多いんだなあ。
ただ細菌やウイルスって、本の中で長時間は生きられない気がしますが…。
まあ、理屈じゃなくて、気分の問題ですよね!

Re: これはこれは!

そうなんです。
変なところで意外に神経質というか細かいというか。
洗面所のタオルなんかもまっすぐに掛かってないとすぐに直すタイプです。
今日も古本を読んでいたので、少なくとも五回は手を洗いにいってます(笑)。
あ、そうそう。Facebookで見つけちゃいましたよ! 僕もあれは嫌いです。

No title

神経を使うところも人それぞれ、ですね。
オイラの場合、男の手が触れると、そこがむずがゆいような気がして手を洗いたくなります。
もっとも、床屋さんとお医者さんは別ですが。

そして、安岡章太郎の「遁走」!
高校生のころは一番の愛読書でした。そのせいで、少々、正確が自虐的に…。(^_^;
昨年、当時の文庫本を読み返してみたのですが、字が小さくて細くて薄いので目に辛かった。
大きな活字の新装版って、あるのかしら?

Re:

>男の手が触れると、そこがむずがゆいような気がして
それは恋なのかもしれません。
大丈夫です。僕はそういうの気にしませんから(笑)

「遁走」はまだ読んでませんが、「遁走」が愛読書の高校生というのもなんだかすごいですねえ。
安岡章太郎の本は現在なかなか手に入らないので、大きな活字の新装版って、なかなかなさそうですね。
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※名古屋に転居しました!
円山を中心に、三角山や藻岩山、手稲山、野幌森林公園なんかにも出没します。書く内容によって文体が変わるクセがあります。

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