雨の円山で2012年08月19日

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 先週の金曜日、八月十七日は朝から雨が降ったりやんだりしていた。その日も朝から自宅で仕事をしていたのだが、そんな天気にもかかわらずなぜだか急に円山に登りたくなってきた。その感覚は、なにか珍しい植物が生えているという情報を得て、それを探しに行くときとそっくりだった。僕は長靴をはいて、ユニクロの紺の傘をさし、急ぎ足で円山へと向かった。たしか、午後の三時過ぎくらいだったと思う。

 雨の登山道はとても静かだった。聞こえてくるのは、傘に落ちてくる雨粒の音と自分の足音だけだ。道は多少ぬかるんではいたが、歩きにくいというほどでもない。そして誰もいない。薄暗く静かな登山道を歩きながら、こんな日に登るのも悪くないなと僕は思った。

 少し登って大きなカツラの木が近づいてきたとき、木の陰にグリーンの上着をきた女性の姿が見えた。きっとシマリスでも見ているのだろうと僕は思った。彼女の姿はすぐに木の陰にかくれて見えなくなった。

 僕がそのカツラの大木のところまできたとき、すでに彼女の姿はなかった。おかしいな、と僕は思った。誰も木の向こう側に歩いて行ってなかったし、長くまっすぐなその道の先を見ても誰も歩いていない。かといって、登山道からはずれてどこかに行った形跡もなかった。見まちがいだったかな、などと考えているうちに雨脚は少し強くなり、湿気を含んだ風が大きな川のようにゆっくりと流れてきて僕の眼鏡を一瞬のうちにくもらせた。めんどうくさいなと思いながら、眼鏡をはずしてTシャツで拭きながら前を見ると、目の前にグリーンの上着をきた女性が立っている。僕はあわてて眼鏡をかけ、軽く頭を下げながらこんにちはとあいさつした。しかし、顔をあげるとそこには誰もいない。僕はかなり目が悪いのでおそらく何かを見まちがったのだろうとは思ったが、そこにはなんともいえない不思議な感覚がのこった。

 北側の薄暗い斜面を登りきり、さっきよりは明るい斜面に出た。上から黒っぽい格好をした人がひとり、下山してくるのが見える。近づいてくると、両手にストックを持った七十歳くらいの小柄なお爺さんだった。
「ご苦労さまでーす」と老人はにこにこしながら先に声をかけてきた。
「こんにちは。お疲れさまです」、軽く会釈をしながら僕は言った。
「この先は滑りますからお気をつけて」と老人は言った。
「ありがとうございます」と僕は礼を言い、道の端によけて老人を先に進ませた。
「奥さんもお気をつけて」、僕とすれちがった直後に老人は確かにそう言った。僕は一瞬、僕のうしろに誰か来ていたのかと思ったが、そこには誰もいなかった。老人は、僕の後ろの空間に向かってそう言ったのだ。僕はその場所からちょっとのあいだ動けなくなった。あの老人はボケているのだろうか。それとも何かが見えていたのだろうか。

「早く来てください」、うしろから女の声が聞こえた。ささやくような小さな声だ。ふりむくとグリーンの上着の女が立っている。とても色白でカーキ色の帽子をかぶった女だ。しかし、急にまた生温かい湿った風が吹いてきて僕の眼鏡を一瞬にしてくもらせる。僕は急いで眼鏡をはずし、Tシャツで拭いてまたかけた。そこには誰もいなかった。でも今度は見まちがいではないという確信がある。そこには確かに女がいた。無表情でじっと僕のことを見ていた。そして彼女は僕に早く来てくださいと言ったのだ。

 午後の四時頃だというのに、あたりはかなり暗くなっている。さきほど下山していった老人の姿はもう見えない。遠くから奇妙なカラスの鳴き声が聞こえる。僕にはそれが警告であるかのように響いた。すぐに下りよう、そう僕は決めた。そして一歩踏み出した瞬間、だれかが僕の腕をつかんで頂上の方へと引っぱる感覚があった。そこには女の姿はなかったが、腕をつかんでいる白い指先が見えた。
「お願いです。早く来てください」、もう一度女の声が聞こえた。「お願いです」





昨晩『ほんとにあった怖い話』という番組を見て、たまには怪談もいいかなと思い、ちょっと書いてみました。酔っぱらって書いた雑文記事に続き、テキトーな記事ですみません。でも、大きなカツラの陰でグリーンの上着の女性を見たのに、そこに行ったらいなかったという経験は事実です。



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亡霊?

「奥さんもお気をつけて」...うっひゃぁぁ〜!身の毛もよだつ盆の後。
きっと下界へ下りて戻れなくなった亡霊が、ムックリさんを道連れに。
・・・と思いながら(創作と思いつつも^^;)読み切りました。
娘がこの手のテレビが大好きで、この番組を最後までみたようです。
恐がりの癖にね。(^^;)私は途中でチャンネルを替えました。もう
ダメですね。想い出すだけで...ぎゃぁ〜かも。(失神寸前汗。^^;)

Re: 亡霊?

「このパターンのときは、最初からもう見え見えなんだぞ」と
各方面から言われております(笑)。
でも、一杯やりながらテキトーな文章を無責任に書くのは結構
楽しいので、ときどきやらかしてしまいます。
それにしても幽霊やらUFOやらUMAの番組は面白いですね。 ←昭和の子供!

No title

おもわず昔を思い出してしまいました。
その昔(小・中学生時代)、夏休みには、悪友どもにこのような怪談を聞かせてから夜の円山墓地に連れて行っていたものです。
当時は環状線もマンションなども無く、夜の円山墓地は真っ暗で静まりかえっていて、格好の肝試し場所でしたよ。
なぜか最後尾の取り合いになるんですよね(背中がゾクゾクする?)。

Re:

僕も中学生のとき、一度だけ肝試しで小樽の墓地に行ったことがあります。
女の子たちとキャーキャー言いながらある墓の前にきた時、突然おじさんが
起きあがり、「うるさいぞ!」と怒鳴られて驚いた記憶があります。
そのおじさんがなぜ墓の前で寝ていたのかは今でも不明ですが、本当に驚き
ました。
今、札幌の墓地で肝試しをやるなら、幽霊よりもヒグマが怖いですね。

No title

お見事!!

文章の流れ好きですね~
1度ですが登った事があります、情景が浮かんできました。
これ以上深く書かないで。
恐くなります(笑)

昔見たヘップバンの映画で確かデビュー作だったでしょうか…
ヘップバーンが緑のドレスで、森の精を演じていたと記憶しています。

夕方に登山の格好で三角山の停留場で下りる人が(男性)
居ました。
今から登ると、どんな情景に遭遇するのだろう等と勝手に想像した事があります。


良いお酒でしたね。











Re:

ありがとうございます!
いつものパターンだし、きっとコメントもつかないだろうと思いながら
書いたのですが、意外なコメントをいただけてうれしいです。
やっぱりネタも「旬」のものがいいのかもしれませんね。
きっとそのうちまた、一杯やりながら書くと思います。(^_^)/
プロフィール

Scorpionfly

Scorpionfly
※名古屋に転居しました!
円山を中心に、三角山や藻岩山、手稲山、野幌森林公園なんかにも出没します。書く内容によって文体が変わるクセがあります。

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